ミソフォニア発症のきっかけとなる13種類・90のトリガー音。歴34年の専門家が生活騒音との違いを多角的に解説。

ミソフォニア(音嫌悪症)の人が、イライラや不安感などを感じるきっかけとなる音のことを、「トリガー音」と呼びます。
では、いったいどのような音がミソフォニアのトリガー音になりやすいのでしょうか?
実際は繰り返される可能性がある、世界中のありとあらゆる音がトリガー音になりえます。
とはいえ、空調の音や水が流れる音など、繰り返す性質を持ちながらトリガー音になりにくいタイプの音があるのも事実です。
今回は研究データで割合が明らかになっている「大きな分類分け」をしたのち、具体的なミソフォニアのトリガー音について、例を挙げて解説します。
もくじ
研究データに基づく、ミソフォニア発症のきっかけとなる音の傾向
ミソフォニア発症のきっかけとなる音(トリガー音)には、騒音と呼ぶうるささではない生活音が多く見受けられます。
共通点は日常生活にありふれている音で、繰り返し発される可能性が高い音であることです。
以下の表は、2015年にアメリカで1,000人以上の参加者を対象に行ったデータをもとにしています。
ミソフォニア発症のきっかけ | 自覚する発症者の割合 |
食べる音 | 94% |
食べる音以外の、食事中の音 | 63% |
飲み物を飲む音 | 78% |
「飲む」以外の口中で発する音 | 76% |
食べることに関連する音 | 55% |
呼吸器に関係する音 | 82% |
日常駅な生活音 | 65% |
職場や学校の音 | 54% |
発声・発話に関する音 | 51% |
動物の鳴き声 | 48% |
電子音 | 33% |
家電類などの音 | 28% |
その他の音 | 16% |
食べる音(94%)
これは主に、食べものを噛む時に発される咀嚼音(そしゃくおん)を意味します。
ミソフォニアで「最悪のトリガー音」だと答える人が最も多いのも、食べるときの音です。
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
カリカリ | 揚げ物など |
ポリポリ | せんべいやスナック菓子など |
ズルズル | 麺類をすする音 |
ボリボリ | 生野菜やたくあんなど |
クチャクチャ | 口を開けて食べる音 |
モゴモゴ | 食べ物を口に入れたまま話す |
ゴックン | 飲み込む音 |
食べ物を口に入れたときに自然と発される、あらゆる形態の音がミソフォニアのきっかけとなります。
いわゆる「クチャラー」に強い嫌悪感を示す人や、近年「ヌーハラ」と呼ばれ、麺をすする音が苦手な人も、ミソフォニアの一種かもしれません。
※「行儀が悪い」という規範意識が理由になっているケースを除きます。
食べる音以外の、食事中の音(63%)
これは食事中に、テーブルの上で発されているあらゆる音のことを指します。
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
カチャカチャ | お皿とフォークが触れ合う音 |
カチッ・シッ | フォークや箸が、歯に当たる音 |
コツコツ・コンコン | ボウルがスプーンに当たる音 |
ガチャガチャ | グラスとグラスが触れ合う音 |
カンカン・カラン |
グラスに入った氷と氷が触れ合う音
|
大なり小なり、食事中には持続的に出ている音なので、これらの音がミソフォニアの発症トリガーである場合は、家族と一緒の食事時間が拷問のように苦痛です。
飲み物を飲む音(78%)
「音をたてて飲むのが下品」であることを気にする規範意識と、ミソフォニアの症状で反応を起こしている状態は、全く別物です。
ミソフォニアを抱える人にとって、トリガー音が上品/下品であるかのマナーやエチケットは無関係で、当事者が選ぶ余地なく耐えがたい不快感を感じます。
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
ズズッ | 熱い飲み物をすする音 |
っあー | 飲み干したあとに出す声 |
ゴクン | 飲み込む時の喉の音 |
フゥー・ハァー | 飲んだ直後に息をつく音 |
ズズズ | ストローで飲んだ時に出る音 |
これらの音は、人が気楽に飲み物を飲んでいる時、無自覚に発しているような音がほとんどです。
もしも結婚している女性が、夫が飲み物をすする音が気になって「出さないで」と強く要求し続けている場合は、ミソフォニアの疑いがあります。
本来は、家の中で夫がどのような飲み方をしていても問題がないはずです。
(「子どものしつけに良くない」という価値観も切り離して考えてください)
夫に外出先でのマナーを守ってもらってもなお、飲み物をすする音が無性に気になってしまう場合は、音そのものに対して脳が反射を起こしています。
これは、ミソフォニアの疑いが濃厚だと言わざるをえません。
「飲む」以外の口中で発する音(76%)
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
チュッチュ | キスの音 |
チュパチュパ | しゃぶる音 |
プルルル | 唇をはじく音 |
シャカシャカ | 歯磨きの音 |
ブクブク | 口をすすぐ音 |
チェッ | 舌打ち |
この解説で取り上げている音は、全てのミソフォニア発症者に共通しているトリガー音ではありません。
「きっかけになる音がどんどん増え続けている」というミソフォニア発症者は、日々のストレスを消化させて、新たなトリガー音が開発されない状態に整えることが大切です。
食べることに関連する音(55%)
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
ガサガサ | スナック菓子の袋を開ける音 |
カシャカシャ | 水筒を振る音 |
コン・コトン | コップを置く音 |
これらの音で怒りを感じるというと、かなり神経質な人だと感じるのが一般的な感覚だと思います。
ミソフォニアはイライラすることを意識的に「選んで」おらず、理性で平常心を保つのが非常に困難な状態です。
呼吸器に関係する音(82%)
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
コホコホ・ゲホゲホ | 咳 |
ンッ!・ゥン!・アァ! | 咳払い |
ズズッ | 鼻をすする音 |
ファー | あくび |
ヒック | しゃっくり |
クシュン~シャウト | くしゃみ |
クンクン | 鼻を鳴らす音 |
スゥースゥー | 鼻呼吸している音 |
スゥハァ | 規則正しい呼吸 |
グゥーグゥー | 寝ている時のいびき |
ハァハァ・ゼェゼェ | 息が荒いときの呼吸音 |
これらは誰しも聞いていて心地の良い音ではないかもしれませんが、ミソフォニアでなければ理性で気にしないことも可能な音です。
その場から動きづらい電車内や、職場・学校・映画館・試験の会場などでは、これらの音をひたすら我慢し続けている当事者も多いと思われます。
参考喘息持ちの人が家族にいて、ミソフォニアを発症した人もいる場合は、どうすることもできずお互いに首を絞めあうような状況になることでしょう。
特に、普通の呼吸音がダメなミソフォニアは悲惨で、相手に「息をしないでくれ」と頼んで実行してもらうことも不可能なので、当事者は非常に辛いと思います。
日常的な生活音(65%)
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
ボソボソ | 壁越しの声 |
ヒソヒソ | 内緒話の声 |
― | テレビやラジオの音 |
― | 特定の楽器の音(ピアノの音など) |
ヒップホップなど | 特定の音楽 |
バン・バタン | ドアを閉める音 |
パチン | 爪を切る音 |
コツコツ | ハイヒールの足音 |
ドスドス | 重い足音 |
トントン | 階段を上る人の足音 |
ポキポキ | 関節の音 |
ボリボリ | かきむしる音 |
アーアー | 赤ちゃんの泣き声 |
ポンポン | ボールの弾む音 |
壁越しの話し声やテレビの音は、程度の差こそあれど、多くの人が耳障りに感じる音かもしれません。
これらの音を、耳が無意識に拾っているような感覚がある人は、ミソフォニアを開発しかけている可能性があります。
職場や学校の音(54%)
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
カタカタ | キーボードのタイピング音 |
カチッ・コツッ | マウスのクリック音 |
パラパラ | ページをめくる音 |
シャッシャッ・コンコン | 鉛筆やボールペンの筆記音 |
ウィーン | コピー機の音 |
カチカチ | ペン類をノックする音 |
ドンドン | 机を叩く音 |
― | 笑い声(2人以上のはしゃぐ声) |
この部類のトリガー音は、音の出る環境から逃れにくいケースが多く、集団行動や仕事・社会生活を送るうえで大きな支障をきたす可能性が高いです。
特に、タイピング音や筆記音は発生頻度が高いため、ミソフォニア発症者は過重なストレスを抱えます。
たとえば「痛み」を痛みだと感じないことが不可能であるのと同じく、ミソフォニアの感覚に「慣れ」は生じません。
つまりトリガー音の発生回数と同じ回数分、同じ強度の不快感を延々と食らい続けています。
一つ一つのトリガー音で感じる不快感が僅かでも、状況が絶え間なく続くことで気が狂いそうなほどの不快感へ発展してしまうのです。
参考発声・発話に関する音(51%)
※擬音語に例えるのが難しいので、箇条書きで失礼します。
具体例
- 喋りはじめの子音(特にSとP)
- カラカラに乾いた口で話す声
- 特定の個人の声
- 囁くように話す小声
- 「あー」と歌う声
- 鼻歌(ハミング)
- 口笛で音階を口ずさむ音
私は21歳の時に、職場のある先輩の口笛だけが急にトリガー音になり、無意識のうちにしかめっ面をしてしまって逆ギレされた過去があります。
必死で我慢し続けているのに逆ギレされた時の理不尽な感覚は、忘れようと思っても忘れられるものではありません。
「これでも態度に出さないように、気を逸らそうと努力したのに‥」と悔しくて、無理解と誤解がひどく悲しくて、うまく説明すらできない自分に許せないほど腹が立ちました。
動物の鳴き声(48%)
※この音も多様性がありすぎるので、箇条書きで記載します。
具体例
- 犬や猫が爪を研ぐ音(ガリガリ)
- 犬が餌を飲み込む音(グキュッ・ゴクン)
- 犬が餌を噛み砕く音(バリボリ)
- 犬が吠える声・鳴き声
- ニワトリの鳴き声
- その他、鳥の鳴き声
- コオロギの鳴き声
- カエルの鳴き声
- 動物が引っかく音
ミソフォニア当事者は「犬」の出す音を苦手としている人が多く、ここで挙げた以外にも犬が水を飲む時の音がダメだという人もいます。
私自身は幼少期から柴犬を飼っている家庭で育ちましたが、幸いなことに犬や動物に起因するトリガーはありませんでした。
(今はペットを飼えませんが、柴犬とゴールデンレトリバーを偏愛してます)
飼い犬はたまに遠吠えをする柴犬だったので「うるさくて寝れないから、早く終わってくれないかなぁ」と思った程度です。
今思えばそれは、単に私の運がよかっただけです。これらの音がトリガー音になっている人は、生き地獄のような日々を過ごしているに違いありません。
なにせトリガー音を出している相手は、言葉の意味すら通じない純粋無垢な動物なのですから。
電子音(33%)
具体例
- 電話の着信音
- 警告音(ビープ音)
- スマホの通知音
- プッシュ式ボタンの音(ピッピッ)
- ゲームの効果音
スマホから発される割合が高い電子音のミソフォニアトリガーは、規範意識と混同されがちです。
基本的に「こんな所で音を出すなんてマナーが悪い」という迷惑な気持ちと、ミソフォニアの症状は切り離して見なければなりません。
スマホで音を出すのが完全に「個人の自由」である環境下でも、音に対して反射的な不快感を感じるかどうかが見分ける分岐点です。
たとえば「ピロン♪」という着信音そのものに反応して憎しみを感じるケースは、ミソフォニアが疑われます。
家電類などの音(28%)
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
ヴヴーン | 冷蔵庫が動いている音 |
ゴォー | ドライヤーの音 |
ジージジジー | 電気シェーバーの音 |
ウイィーン | 電動歯ブラシの動作音 |
カチカチ・チッチッ | 時計の秒針の音 |
ウィンウィン | 芝刈り機の音 |
ゴゴー・ジャー | トイレの水を流す音 |
これらの音は、聴覚過敏の人が苦手な音と共通するものも多いので、ミソフォニアであるからなのか、聴覚過敏であるかの自己判断がやや難しいです。
見分け方の目安として、何をしていても反射的に耳を塞ぎたくなる場合は、聴覚過敏が疑われます。
その他の音(16%)
擬音語の例 | 実際に音が出るシーン |
ウィンウィン | 農機具のポンプの音 |
ピコン・ピンポン | PCのお知らせの音 |
― | 交通騒音 |
カチャ・コツン | 車のロック音 |
ドン・バタン | 車のドアが閉まる音 |
私はここに挙げた音がトリガー音に該当しません。調査全体で16%と最も割合が少ないので、ミソフォニアのトリガー音ではない可能性もあります。
ミソフォニア発症のきっかけに「なりにくい」タイプの音
- 花火の「ドン!」という爆発音
- ライブ会場の爆音
- 換気扇やエアコンの動作音
- 救急車のサイレン
- 雷の轟音
- 波の音
- テレビの砂嵐「ザー」という音
- 工事現場の騒音
- 黒板を引っ掻いた音(ギギーッ)
- スポーツ観戦の歓声
たとえば飛行場の近くに住んでいる人は、毎日騒音に耐え続けたことがトラウマとなって、別の場所で飛行機の音を聞いた時にイライラするかもしれません。
ですがこのトラウマには「飛行場の騒音で迷惑していた」という不快な原体験が存在します。
それに対してミソフォニアは、何気ない光景をきっかけにトラウマのない段階で突然発症するのが特徴的です。
(詳しくはミソフォニアのメカニズムをご覧ください)
また、ミソフォニアのトリガー音は一般的に柔らかい音が多く、音量も決して大きくありません。
私も「黒板を引っ掻くギギーッという音」を聞いたら背筋がゾワっとしますが、ミソフォニア特有の感覚とは全く別モノだと感じます。
まとめ
ミソフォニアを発症していない人が知ると、「こんなに些細で、ありふれた音に激しく苛立つものなのか」と理解に苦しむことでしょう。
私は過去に反応していて、今は全く反応しなくなったトリガー音も多いので、ミソフォニア当事者が感じる感覚と、一般の方の受け取り方を両方理解できます。
ミソフォニアのトリガー音は、本当に何気なく発されている音ばかりです。
ミソフォニアを発症した当時者ですら、なぜ特定の音を聞くだけでこんなにも耐えがたいストレスを感じるのか、理解に苦しみ続けています。
実際はトリガー音によって、不随意反射(自分の意識でコントロールできない反射)が起こり、生じてきた猛烈に不快な感情を、なけなしの理性で我慢している状態です。
(詳しくはミソフォニアのメカニズムを参照)
特に子どもが避けられない「家族と一緒の食事」は、ミソフォニアを発症した子どもにとっては拷問のような時間。
繰り返しになりますが、ミソフォニアのトリガー音に「慣れ」は生じず、発されたトリガー音の回数と等しい回数・閾値の不快感を感じます。
なので音を「気にしすぎ」でもありませんし(可能なら考えたくもない)、「そのうち慣れる」こともあり得ません。
この記事をご覧いただいて、一般的に「音が不快」だと感じる状態と、ミソフォニア当事者の感じている「音が憎い」という感覚の違いが、うまく伝われば幸いです。
音を出す人が憎いのではなく、それ以前に音そのものが憎い。嫌悪感の理由は、どれだけ考えても腑に落ちる答えが出ない。
これがミソフォニアの抱く、トリガー音への感覚を正確に表現する言葉だと思います。
「自分は音出さないの?」というもっともな疑問に対する答え
そして最後に「自分が出す音はどうなのか?」という疑問については、矛盾があるというのが事実です。
例えば私は、「筆記音」に関しては自分が書く音も他人が書く音もダメでした。
他人の出す特定の音がダメな場合もあれば、自分が出す音だけで自爆するケースもあったので、ミソフォニア症状に論理的な一貫性は認められません。
少なくとも、ミソフォニア当事者は嫌悪感を自分の意思で「選んで」おらず、自動的・反射的に「感じて」います。
つまり、症状がワガママや独りよがりといった「自意識」の支配下に置かれていないので、「ミソフォニア」という現象そのものが矛盾を内包しているのです。