美容室のお客様との会話で、お客様の「度胸」と「受容力」に言葉を失ったというお話

こんばんは、美テラシーの角谷です。
私の美容室「Re+(リプラス)」は完全個別・お店貸し切りという店内環境なので、基本的にお客様は何でも話してくださいます。
他のだれが話を聞いているわけでもありませんし、「情報は一方通行ですから」とお伝えして、
たとえご夫婦・親子のお客様であっても、会話の具体的な内容は決して漏らさないです。
(接客業をする立場として、当たり前のことではありますね)
なので私はどんな話を聞いても大きく動揺することは少ないのですが、2か月ほど前に「強烈な気づき」を得た内容がありましたので、ご紹介します。
急遽、入院が決まって美容院へ来店された常連のお客様
50歳前後のお客様Fさん(女性)は、子供2人が成人していて、一番下の息子さんももうすぐ大学生。
家業である不動産業を手伝っていて、いつも忙しそうな美容室開業当初からのお客様です。
義理のお母さまが80代で不動産業を続けているそうなのですが、
ご年齢もあってものすごく重要な契約絡みのことを「忘れてしまう」ので、不動産絡みの残務整理に奔走されて、本当に大変そうでした。
でも、Fさんご本人は「もう大変なのよー」と少し困った表情で言いながらも、日常茶飯事としてとらえていた感じです。
どんなことがあっても、聞き手にあまり深刻さを感じさせないといいますか。
ところが前回のご来店からたった2ヶ月しか経っていないのに、ずいぶんほっそりされていたので話を伺うと、
Fさん「最近腰痛があって、旦那に『運動不足だからじゃない?』って言われたから走ってたの。でも先日健康診断で、肝臓に13㎝の腫瘍があるって言われて。お医者さんも『良性ってことは、まずないね』て言ってて、明日PCR検査うけてから入院して、すぐ手術することになったの。詳しい検査結果はまだなんだけど、肝臓がメインじゃないみたいだから、他も取ると思う。抗がん剤治療もすると思うから、今回の髪はなるべく短くしてください」
という衝撃的な内容でした。いつも通りというか、特に感情の抑揚もなく、まるで他人のことを話すようにサラッとお話しされました。
私がやる仕事はカットカラーなわけですが、あまりの過酷なお話しの内容に、私の平常心もさすがに揺らいでしまいます。
私「食事は、あまり喉を通らなかったんですか?」
Fさん「ううん、食欲はあったんだけど、コロナのせいで家族が家の食べ物を全部食べちゃうのよ。だからいつも私の食べる分が残ってなくて。長女は『やばい、ママに体重抜かれる―』とか言ってるし」
私「いやいや、それどころじゃない気がします!ご主人も心配されてますよね?」
Fさん「うん、毎日シクシク泣いてる」
私「はい、僕がご主人の立場だったとしても、やっぱり泣くと思いますよ!」
Fさん「義理の母も、いつもと違って『一緒に病院行こうか?』って言ってくれてるよ」
私「はい、それは本当にFさんが心配なんだと思いますので」
Fさん「それはいいけど、毎日主人に泣かれるから、もううっとうしくて。どうせなるようにしかならないのよ」
いつもと全く同じ、平常トーンでお話しされてました。
このやり取りを通して、私自身Fさんの体調が本気で心配だったのはもちろんのこと、
Fさんが今までの人生で潜り抜けてきたであろう「修羅場」に想像を馳せて凄みを感じたのです。
人が何かを「大変だ」「辛い」と感じるとき、それまでに経た自分の経験が一つのモノサシになると思います。
これまでの人生で経験してきた惨事と比較して、「今までで一番大変」「あの時に比べれば、まだ大したことない」というように、捉え方が変化するものではないかと。
Fさんは今回の入院・手術を日常茶飯事とさほど変わりない意識レベルで認識しているようでしたので、
これまでの人生で、一体どれだけの修羅場があったんだろう…と考えました。
「13㎝の悪性腫瘍確定・原発わからない・まだ10代の子供がいる」
一般的なメンタルを持った主婦の方だと、もっと悲観してもおかしくない状況だと思うんですね。
Fさんの仰るように、なるようにしかならないとは思うのですが、現状を抵抗なく受容するのも、一つの力だと思いました。
きっとFさんは、これまでの50年の人生で、何かをやらずに悔いることのない生き方をされてきたんだと思います。
私はFさんの単なる担当美容師に過ぎませんが、「ほら、やっと髪生えてきたのよー」と、
またいつもと変わらぬ調子で戻ってくるFさんをお待ちするばかりです。