抑止策も効果が見込めず、感染拡大の終わりが見えないコロナウィルス。4月7日に発令された国の緊急事態宣言に先駆けて、東京都知事は多くの業種に対して自粛要請をかけると発表しました。
そして営業自粛要請がかけられた業種の一つに、「理髪店」の項目が。しかし「美容室/美容院」の記載はないうえ、営業自粛要請に強制力はありません。
とはいえ、どうしても「密接」が避けられない理美容業へも、ついにコロナウイルスの直接打撃が及ぶ事態となりそうです。
今回は国が緊急事態宣言を発令することによって、今後美容院の営業へどんな影響が及ぶのか考察していきます。
緊急事態宣言の影響で、東京都が営業自粛要請をかける業種一覧
今回の緊急事態宣言発令によって、営業自粛要請の影響が及ぶのは娯楽施設だけではありません。人工密度が高くなりやすい業種全般に及んでいます。
そして黄色のマーカーを引いた箇所には「理髪店」の記載が。法律や条例では、理髪店(散髪屋・床屋・理容室)と美容室(美容院・ヘアサロン)を「理容所」「美容所」という呼び名で区別します。
都の営業自粛要請に従わなかった場合はどうなる?
現在は罰金などの罰則規定が設けられていないため、営業自粛はあくまで事業者の判断に委ねられます。つまり、カラオケボックスやネットカフェが自粛を無視して営業したとしても、営業禁止の強制力はないということです。
コロナ緊急事態宣言の発令で、美容院は営業できなくなる?
現在のところ、美容院は今までと変わりなく営業することが可能です。一方で人気美容室「ALBUM」や「afloat」など、自主的に営業自粛を発表しているサロンもあります。
4月8日現在でも、すでに多くの美容院が追従する形で自主的な営業自粛に踏み切っている流れですが、無計画に営業自粛するべきではありません。
公的制度の積極活用を含めた、今後の「販売戦略」があって成り立つ営業自粛
人気美容室が営業自粛へと踏み切る背景には、以下に記載したような3つの公的制度活用を見込んだ今後の戦略があるからです。
- この上ないほど条件が良い「コロナ関連事業融資」の活用
- 助成金制度の活用
- 今後予定されている中小企業への「給付金制度」の活用
前年比で直近の売上が落ちないと、これらの制度は活用できません。変な話、営業自粛で一定期間の「大幅な営業打撃」を作り出すことで、公的制度のフル活用が可能になるわけです。
つまり人気美容室における営業自粛は、無策無謀の営業自粛ではなく、社会に対するパフォーマンスの意味合いと、各種公的制度を有効活用できる地合いを準備できるだけの見通しを立てているものと推察できます。
なにせ人気美容室は間違いなくビジネスの手練れなので、このあたりは十二分に踏まえた上での自粛判断と解釈するのが妥当です。企業体力のない小規模サロンがマネをしたら、倒産一直線なので気を付けましょう。
(私のサロンは換気システムが運よく優秀で、非常に広い空間の貸し切り営業なので、マスク営業を継続します)
すでに理容・美容の垣根は形骸化している
現在は、理容と美容で業務内容の垣根がほとんど存在しません。以前は美容室での顔そり(シェービング)が認められていませんでしたが、今はその制約も撤廃されました。
男性客と女性客の割合が違うぐらいで、美容室と理容室の業務内容はほぼ一緒です。
なぜ「理髪店」だけが営業自粛の対象になるのか、根拠を指摘される可能性も
理髪店が営業自粛要請を受けるなら、業務内容に大差のない美容院が営業自粛を要請されないほうが不自然です。
このままだと、今後理容業界から「不公平だ」「理容だけが自粛要請の対象になっている根拠は?」と猛反発の声が噴出するのではないでしょうか。
東京都は理髪店に自粛要請をかけると発表している一方で、国は「理美容室に自粛要請はかけない」と明言しているので、国と都の見解で齟齬をきたしている様相です。
(まさか「小池都知事自身が美容院に行けなくなると困るから」という理由ではない、と思いますが)
美容室に営業自粛要請はなくても、今後実質的に「マスク営業必須」の業種になる
ここまでコロナウィルスに対する警戒心が強くなると、国民全体の価値観そのものを変えてしまいます。この先コロナショックが完全収束したとしても、多くの人は人がたくさん集まる場所に対して警戒心を抱くようになることでしょう。
また、業種特性として、美容室の業務は密集・密室・密接いわゆる「3つの密」のうち「密接」を避けられません。これは、どんなにサロンの設備や換気をケアしてもなくせない問題点です。
これまでは「接客業なのにマスクをするのはどうなのか」といった議論も巻き起こっていました。ですが今後は「接客業ならマスクをするのが当然」という真逆の世論へ急転換していくと予想されます。
現在は「顔面作業時」のみマスク着用が義務
都の条例ではシャンプーや眉カット・メイクアップなど「顔面作業」の時のみマスク着用が義務となっています。今の空気感だと美容師は、真夏もマスク必須の業種になってしまいそうです。
とはいえ、コロナショック以前から、常時マスク着用で仕事している美容業従事者も少なくないと思うので、それほど抵抗なく受け入れられる流れなのかもしれません。
まとめ
- 現状、緊急事態宣言が発令されても理美容室は営業できる。
- 都の営業自粛要請に、強制力や罰則はない。
- 有名美容院が自主的に営業自粛を発表している。今後他のサロンも追随して営業自粛する可能性が高い
- 人気美容室の営業自粛は、公的制度をフル活用するための「地ならし」
- 理容業界から、不公平を指摘する声が上がる懸念も考えられる
- サロンワークは実質的にマスク営業必須の業種となる
コロナショックは経済活動全般を鈍足化する一方で、「働き方改革を最も推進したのは、政権ではなくコロナだった」という皮肉な意見も聞かれます。
とはいえ理美容に限らず、店舗型のビジネスはテレワークが困難な業態です。
都の営業自粛要請を無視しても罰則はないため、今後は自粛を続ける事業と、自粛の空気を振り切ってガンガン動かす事業に二分されると考えられます。
たとえ世論の風当たりが猛烈だとしても、テレワークに不向きで、企業体力もない会社が営業自粛を延々と続けていたら、倒産への一本道しか待っていないからです。
私を含め、多くの理美容室は「中小法人・個人事業」に該当しますから、それほど企業体力に余裕はないはず。
国から中小企業に向けての給付金制度も発表されましたし、無担保・低金利のコロナ関連融資制度もすでに始まっていますので、猶予期間の間に次の手を打ちましょう。
(個人的にはオンラインとオフライン、両方の収入口を確保しているのが、最もリスクヘッジになると考えています)
オーストラリアの知り合い曰く、向こうは即座にほぼ全業種が営業自粛となった一方で、手厚い手当が支給されているとのこと。皆喜んで休業しているそうです。
更に、オーストラリアの美容室では客一人あたり「4㎡」の空間確保を義務付けています。これは日本の美容室に換算すると、4~5席で1人しかお客さんを入れていない状態です。
特に家賃が高額な都内の美容室では、模倣が難しい環境施策。今後都心の美容室は、料金の大幅値上げか撤退、もしくはビジネスモデルの大転換など苦しい選択を余儀なくされそうです。