※この記事は美容業界の専門用語が多数登場しますので、ご了承ください。
次世代のトリートメント技術として注目を集めている「酸・熱トリートメント」、通称「酸トリ」。
今までのトリートメント技術では難題だった、ブリーチ毛など、ハイダメージの髪に対する新しいアプローチとしても可能性を期待されていますが、気になるパーマとの相性はどうなのでしょうか?
美容師も、お客さんも気にするであろうこのテーマ。検証から得た見識をもとに解説していきます。
パーマと「酸トリ」による髪質ケアは両立できる?
髪質ケアというからには、可能であればコールドパーマと酸トリのいいところどりのメニューを作りたいもの。コールドパーマに酸トリを織り交ぜた施術を行う場合、以下の3つのケースが想定されます。
- パーマの前処理として「酸トリ」を使ってからコールドパーマを行うケース
- パーマの後処理として「酸トリ」を行うケース
- パーマと同時進行で「酸トリ」を活用するケース
それぞれのケースで発生する問題点、現時点での解決案を提示していきます。
パーマの前処理に「酸トリ」、後でコールドパーマ
このケースで比較的相性が良いと感じた還元剤はシステインです。とはいっても、酸による減力を強く感じるので、テストカールのタイミングが非常に読みにくい感覚。
先に全体の「酸トリ」施術を終えた後でワインディング⇒システインでのコールドパーマ施術という流れで行います。ただし、高温(200度以上)のアイロンを使った酸トリ後は、縮毛矯正がかかった髪にコールドパーマをかける時のような不安定さを感じました。
テストカールをしてもダレますし、仕上がりの髪もパサつくというありさまです。今現在できる対処法としては、酸トリを行う際のアイロンの温度を上げすぎない(180度以下)ようにするか、アイロンを入れず、ブローで終わってパーマ工程に入ることです。
パーマの後処理として「酸トリ」を行う
パーマ直後の酸熱トリートメントが、パーマの仕上がりに及ぼす影響には諸説あります。しかし私の体感としては顕著にパーマが緩みました。
パーマをかけ終わって、仕上げのドライを行った後でストレートアイロンを入れる工程となります。とはいえ、酸熱をしなかったとしてもパーマ直後にしっかりとストレートアイロンを入れたら、パーマが緩んで当然ですよね。
グリオキシル酸自体にはかかったパーマを落とす力がないと言われます。しかし結果論としてはパーマ直後のストレートアイロンを使った熱入れで、パーマは緩みました。
なおグリオキシル酸の酸トリは、アイロンによる熱処理の工程を入れなくても質感向上の効果は得られます。何もしないときよりもツヤが出て、疎水性も上がる体感が。
もしもパーマが緩むリスクを負いたくない場合は、敢えて仕上げのストレートアイロンを入れないという方法も。いずれにしても200度以上の高温でストレートアイロン処理をするとパーマは顕著に緩みます。
パーマと同時進行で「酸トリ」を活用する
最も時間短縮が見込めて、実用化したいサロンが多いと思われるのがこちらのケース。つまり「都合の悪いクセは和らげて、必要な場所にパーマをかけたい」といった目的の活用法です。
ストレートアイロン処理は仕上げの時に必要な場所に施すだけなので、酸トリの薬剤はロッドアウトまでつけっぱなしで問題ありません。特に時間を測る必要はなく、パーマの進行に合わせていけば問題なく仕上がります。
気を付ける必要があるのは、酸トリの薬剤がパーマをかけたい部分に付着してしまわないようにすることです。酸トリ成分が付着した部分だけパーマがかからなくなってしまいます。
予防策は以下の2つです。
- ワインディング後、先にパーマ液を塗布すること
- 酸トリの薬液が、パーマをかけたい部分に垂れ落ちてしまわないようにガードすること
なおジェル状の薬剤は、時間経過で毛先の方に酸トリの成分が垂れてきてしまうことが。このリスクを回避するためには、粘度の高い製品を使う方が無難です。
ラクトンチオールやGMTなど、比較的酸性で還元するカーリング料でもかかりにくくなるという結果。酸トリとパーマ液・カーリング料は、相性面では難しいものと言えるのではないでしょうか?
このパーマと酸トリの掛け合わせ技術は、PHの振れ幅が大きいことも一つの懸念点。髪のイオン結合には強い揺さぶりをかける行為なので、未知のリスクが存在する可能性も考えられます。
縮毛矯正と酸トリの髪質ケアを併用
酸トリでは伸ばしにくい、新生部の強いくせ毛は素直に縮毛矯正の薬剤にお任せし、すでに縮毛矯正がかかっている部分に酸トリを活用するのはとても簡単で有用な活用法です。時間経過による縮毛矯正のくせの戻りを落ち着かせながら、髪のコンディションもケアしてくれます。
なおアイロンワークは根元から毛先まで一気にやってしまっても問題ありません。必要以上の神経を遣わずに済むので、施術者の負担も少なくなります。
気を付けなければいけないのは一点だけで、既ストレート部分に還元剤をオーバーラップすること。これをしなかった場合、塗り分けた境目に段差がついてしまうことが。繊細な施術をしたい方は、その部分だけ弱い還元剤のものに塗り分けまで出来れば完璧です。
デジタルパーマと酸トリの髪質ケアを併用
この複合技術は、求めることによって難易度がかなり変わります。どこまで髪質ケアの効果を得たいのか?というのが焦点ですが、
- デジタルパーマを「かける部分まで」酸トリを効かせたいのか
- デジタルパーマを「かけない部分」に酸トリを効かせたいのか
デジタルパーマをかける部分まで酸トリを効かせたい場合は、酸トリ&パーマのテストカールの経験値が必要なことに加え、工程が長くなることを覚悟する必要が。それに対して、デジタルパーマをかけない部分のくせを抑え、中間~毛先にカールが欲しいだけの場合は単純に塗り分けで対応すれば問題なしです。
このケースでもコールドパーマのケースと同様、酸トリは粘性のある製品をチョイス。そしてデジタルパーマをかけたい部分に、酸トリの薬液が付いてしまわないように注意しましょう。
まとめ
酸トリによる髪質ケアとパーマを両立させたい場合、最も難関となるのは「テストカール」。通常のパーマでも経験が必要で厄介なテストカールですが、酸トリと併用の場合は更に独特です。
通常のパーマとは違う感覚で、コールドの場合は毛先のカールがしっかり入らない傾向が。しかも酸トリでアイロンの温度を上げることで、くせ毛は落ち着きますがパーマの難易度が上がります。
酸熱トリートメントは、髪の中に今までにない新しい結合を作る技術。シスチン結合に作用する(はずの)パーマ液が、その未知の結合にも同様に反応するのか?という疑問はいまだに残ります。
今現在確認できていることとして、
- 髪質ケアをする前の状態でもパーマがかけられるコンディションの髪には(なんだかかかりにくいけれど)パーマがかかる
- ハイブリーチ毛など、髪質ケアをする前のコンディションでパーマがかからない髪は、髪質ケアをしてもパーマがきれいにかかる髪にはならない
この2つは確かな違いを感じます。つまり髪のドーピングのような効果で、健康毛に修復していることとは違うのではないでしょうか?