パーマをかけるのがとにかく苦手で、困ってます。ロッドを巻くのは問題なくできていると思いますし、コテでスタイリングをするのは得意です。
でも、コテで巻いたようにパーマをかけたくても、実はパーマ液の種類による違いがいまいちよくわからなくて、いつもしっくりこない仕上がりのパーマになってしまいます…。
簡単にスタイリングできるようなパーマをかけたいのですが、むしろパーマをかけた後の方がお客さんもやりにくいだろうなと。口が裂けても言えませんが、内心はそんな気持ちです。
でもパーマ液のことを勉強すればいいのか、巻き方の問題なのか、それともコールドパーマとホット系パーマの使いこなしなのか、パーマの要素が多すぎるので全然正解がわかりません。
※この記事は美容業界の専門用語が頻出しますのでご承知ください。
使いこなすことが出来れば、髪質の壁を乗り越えたヘアスタイルの提案を可能にするパーマ技術。ですが最近では、20代の美容師がパーマを怖がるという噂も耳にしました。
ハイトーンカラーやデザインカラーの普及、顧客がホームカラーを併用することによる髪のコンディションの複雑化が一因でしょう。コテでのスタイリングができるということは、ヘアスタイルの構成要素を理解できている証拠です。
ということはパーマ液の選び方、色々なパーマ液の違いを理解する必要があるので、そこをクリアにすることでゴールの髪型をパーマで再現できるようになりましょう。
パーマ液のことを学ぶ前に知っておきたい前提知識
パーマを理解するうえでまず最初に知っておきたいことは、乾かすだけできれいに仕上がる髪=パーマも簡単に仕上がる髪だということ。かかりやすさ、かかりにくさは仕上げやすさには無関係です。
つまり手で乾かすだけでも艶のある仕上がりになるような髪はパーマを仕上げるのも簡単で、ブローやアイロンをしないと見栄えのしない髪質は、きれいなパーマをかける難易度もその分上がります。
「コテで盛った仕上がり」をパーマで再現するのは、非常に高ハードル
例えば髪が傷んでいなくても表面にアホ毛の出てしまう髪は、ストレートパーマ技術の併用などでアホ毛の存在を消す必要が生じます。無意識のうちに美容師の目もお客さんの目も、コテで盛った仕上がりに見慣れていることによってパーマの仕上がりに対する期待値が非常に高くなっているのです。
ですが髪質の壁は決して低くないため、スタイリングで作れる髪型とパーマで作れる髪型を完全に一致させるのは難しいです。コテで巻いたのか、パーマで作ったのか見分けがつかない仕上がりのパーマを目指すぐらいが、現実的な着地点となります。
チオ系・シス系・その他還元剤の違いによるパーマのかかり方はどう違う?
一般的にはチオ系が弾力感の強いリッジの出るパーマがかかって、シス系は硬さがなくてリッジの緩やかなパーマがかかるイメージでしょうか。ですが実際にはグリグリとしっかりかかるシスもあれば、緩やかにかかる酸性のチオも存在するため、還元剤がどれだからこのようにかかるとは、一概に言えないものなのです。
ここではそれぞれの還元剤によるかかり方の傾向とともに、9つの還元剤が持つ使用感を、敢えて感覚的な表現で記載します。薬剤の使用感を自分の感覚で掴むのが、パーマ攻略の最短距離です。これも一つの視点として、頭に入れておきましょう。
※サロンで薬剤導入を検討する時の参考になるように、単品の還元剤で作られている製品名も記載しておきます。
- チオ系は持ちの良さがピカイチ
- シス系は潤い感と褪色の激しさが際立つ
- システアミンはチオに近いかかり&パサっと軽い髪になる
- サルファイトは独特の髪質に変わる
- ラクトンチオール(スピエラ)は臭いけど安心感最高
- GMTはスピエラよりもハリ感が出る分、ちょっとドライな質感
- チオグリセリンはシス系とよく似ている
- グアニルシステインとチオ乳酸は、単品の製品が見当たらないので不明
- グリオキシル酸はクセが伸ばせてカールを作れない、謎の物質
①チオ系は持ちの良さがピカイチ
リッジの出やすさではシステアミンと勝負になることの多いチオ系パーマ液。です、パーマの持ちではチオが圧勝で、一度チオでしっかりとかかったパーマは、最も長期間パーマを保つことが可能です。(単品還元剤製品:各メーカー多数あり)
②シス系は潤い感と褪色の激しさが際立つ
チオ系に比べてパサつきを感じにくいかかり方をするシステイン。一方で、そのPHの高さゆえヘアカラーの褪色が激しいのは気になるところです。
ちなみにリスペクツというメーカーの発売している「コマンドギア EQ-C2」という製品は、還元力をほとんど持たないシステイン製剤で、パーマのかかりやすい髪質に整える前処理剤の役割を担います。(単品還元剤製品:各メーカー多数あり)
③システアミンはチオに近いかかり&パサっと軽い髪になる
ハードタイプのシステアミンは、チオ系のようなくっきりとしたリッジを表現することが可能です。また、ソフトタイプのシステアミンは柔らかい手触りのパーマを作れるので、自由度が高い還元剤だと言えます。
なお、ハードとソフトのシステアミンパーマ液に共通する感覚は、仕上がった髪の軽さです。その特性ゆえ、もともとドライな髪質はそれを助長してしまうこともありえます。
その場合は他の還元剤を選ぶか、仕上げに使うスタイリング剤での質感調節が必要でしょう。(単品還元剤製品:ナンバースリー トゥーコスメカール)
④サルファイトは独特の髪質に変わる
ナカノから発売されている製品が、昔からある代表的なサルファイトです。サルファイトは「ブンテ塩」という独特の成分を髪の中に作るため、それによって髪質に変化が起こります。
たとえばパーマの非常にかかりにくい超軟毛に小さなロッドで巻くと、全体にふんわりした立ち上がりが作れます。また、毛先にもそこそこのカールが付く仕上がりになるので、ハイダメージ毛にも応用すれば活用可能です。
なお資生堂から発売されているサルファイトはシス並みにかかるので、同じ「サルファイト」とは言っても全く違うもののように感じました。
サルファイトで硬い髪にパーマをかけたい場合はかなりロッド径を落とさないとかからないため、パーマの難易度がさらにアップします。その代わり髪の傷みは出ませんし、柔らかい手触りに変わったように感じるので、髪質を変えるために敢えてサルファイトを選ぶという選択肢もアリです。(単品還元剤製品:ナカノ カールエックス ポジット)
⑤ラクトンチオール(スピエラ)は臭いけど安心感最高
オナラのような不快臭を放つため、客数の多い大型美容室では嫌われまくるラクトンチオール(スピエラ)。ですが髪の傷みに起因するかかりの差が非常に出にくいパーマ液なので、複雑なコンディションの髪にも安心して使えます。
しかも両親媒性と言って、水にも油にも溶け込む珍しいパーマ液なので、パーマをかけた後の髪の方が手触りが良くなるという嬉しい安心感もあるのです。「独特の不快臭」という大きなデメリットを差し置けるだけの、圧倒的なメリットも見逃せません。(単品還元剤製品:ムツナミ、オレンジコスメ、パイモアなど複数あり)
⑥GMTはスピエラよりもハリ感が出る分、ちょっとドライな質感
前項のスピエラと似たような使い方と性質を持つGMTですが、仕上がり感はスピエラよりもややドライです。その分ハリコシを感じますし、不快臭もありません。
スピエラより、もっとハリコシ感の強い仕上がりを求める場合など、髪質による使い分けができればベストです。(単品還元剤製品:オレンジコスメ、パイモアなど複数あり)
⑦チオグリセリンはシス系とよく似ている
リッジがやや出にくくて、良く言えばなじみの良い自然な仕上がりのパーマをかけられるのが、チオグリセリンの配合されたパーマ液が持つ特性。反面、根元のしっかりとした立ち上がりを出すのは難しいパーマ液です。
硬い髪を柔らかく仕上げたい場合に適したパーマ液ですが、求める仕上がりによっては使いにくいパーマ液となるでしょう。(単品還元剤製品:ナカノ カールX Gシリーズ)
⑧グアニルシステインとチオ乳酸は、単品の製品が見当たらないので不明
色々な還元剤をブレンドした「ハイブリッド系カーリング料」への配合で見かける成分ですが、これら単品の製品が見当たらないので、ここでは割愛します。
⑨グリオキシル酸はクセが伸ばせてカールを作れない、謎の物質
近年髪質ケアで登場する機会の増えたグリオキシル酸。縮毛矯正のような耐湿性のあるクセのばし効果があるにも関わらず、カールは作れないという不思議な性質の成分です。微妙に還元作用を持つという情報も出回っています。
ただ、他のパーマ液と大きく異なるのは「薬剤がどのくらい髪に反応した」というテスト方法が存在しないことです。グリオキシル酸は強酸性で髪を収れんさせるため、「テストカール」「軟化」といった概念そのものがありません。
これにより、グリオキシル酸の効かせ方で強弱のコントロールは実質不可能となります。
(販売メーカーの定めた放置時間を、根拠も分からないまま従うしかない、ということです。15分と言われていても、本当は3分で薬剤が効いているかもしれません)
(単品製品:ビーファースト アシッドシェイパー)
色々なパーマ液の違いをもっと分かりやすくする分類法
パーマ液は、分類上の違いで大きく分けて「医薬部外品のパーマ液」と「化粧品分類のカーリング料」に分けられています。この分類法そのものがパーマ液の違いを分かりにくくしている元凶なので、前項の説明でも敢えて「パーマ液」の表記で統一しました。
実はこれらの違いは一点だけで、法律上同じ日にカラーをしても良いかということのみ。「化粧品」と「医薬部外品」の分類分けは、パーマ液でもスキンケア製品においてもどこかがおかしいので、真に受けないほうが賢明です。
そして一般的なアルカリ剤の入ったパーマ液は、医薬部外品でも化粧品であっても、オーバータイムで髪を傷めます。オーバータイム=パーマの失敗を意味するので、オーバータイムを未然に防止できればパーマの失敗もなくせるということです。
ハイブリッドタイプのカーリング料は、便利で厄介な存在
現在主流で出回っているパーマ液は、システアミンをメインとして複数の還元剤をミックスしたハイブリッドタイプのカーリング料がほとんどです。その中で更にソフトタイプ・ノーマルタイプ・ハードタイプなど2~4段階のパワーで分けられています。
何となく都合の良いかかり方をしてくれる製品もありますが、還元剤の配合比率に関してはメーカーのみが知る企業秘密。つまり現場の美容師には、ハイブリッドタイプカーリング料の具体的な中身は分からないのです。
要するに、ハイブリッドカーリング料はパーマ液のチャンポン状態で、髪の中でどのように作用してパーマがかかるのかが解析できません。それに起因したパーマの失敗が起こり得る可能性も理解しておきましょう。
各種メーカーから近年発売されているパーマ液はこのハイブリッドタイプがほとんど。この種類でいろいろなパーマ液を使ってみましたが、今はリアル化学の「ルシケア」がクセのない効き方で使いやすいので、個人的に気に入っています。
パーマ液の選び方で失敗しないために必要な4つのポイント
種類がありすぎるがゆえに、ますます難しく感じてしまうパーマ液選び。迷路に入ってしまわないためには、以下の4つのポイントで判断すると使い分けしやすいです。
- まずは一つのラインナップを使いこむこと
- アルカリ剤の有無で使い分けする
- 液状とクリーム状のパーマ液をうまく使い分けする
- デジタルパーマの失敗が怖い時は、アルカリ剤無配合のパーマ液が無難
①まずは一つのラインナップを使いこむこと
現実的には、システアミンをベースとしたハイブリッドタイプのカーリング料を使う機会が多いサロンワーク。混乱させられないためには、一つのメーカーのラインナップを使いこむことで、それぞれの薬剤パワーでのかかり方がどう違うのか、その違いを掴むことが重要です。
②アルカリ剤の有無で使い分けする
パーマのかかりに大きな影響を及ぼすのが、パーマ液にアルカリ剤(アンモニア、モノエタノールアミンなど)が配合されているのかどうかという部分。浸透促進が目的のアルカリ剤はハイダメージ毛には不要のため、シビアな傷みのある髪にはアルカリ剤無配合のパーマ液が安全です。
③液状とクリーム状のパーマ液をうまく使い分けする
つまりこれはパーマ液の硬さをコントロールするということです。混ぜることで粘度調整できる製品も複数出ているので、活用できれば対応できる髪質が大きく広がります。
④デジタルパーマの失敗が怖い時は、アルカリ剤無配合のパーマ液が無難
最も避けたいパーマの失敗はホット系パーマによる毛先のチリつきです。コールドパーマで出てしまったチリ付きはリカバリー可能ですが、ホット系で焦がした髪はなかなか厳しい状態になります。
中間水洗で1液のアルカリが流し切れずに残ってしまうことが一因となるので、そもそもアルカリ剤の配合されていないパーマ液を使うのが最も安全です。
2液はどうやって使い分けする?
ブロムさんと過酸化水素を選べる状況の場合、大きく変わるのは放置時間とヘアカラーの褪色度合い・仕上がった髪の柔らかさです。ブロム酸の方がしっかりとした弾力のあるパーマに仕上がると言われますが、ホット系パーマは熱の影響で髪に硬さが出るという特性も持ち合わせています。
弾力感を重視するならブロム酸!と言いたいところですが…
ブロム酸による弾力以外でも、ホット系パーマによって生まれる髪の硬さとは、ある意味髪のゴワつきであると同時に髪のハリコシでもあります。求める仕上がりに応じて2液も使い分けることが、自由にパーマを使いこなすコツの一つです。
なぜパーマ液にシステアミンが最もよく使われる?
カールの形成力では良い勝負をするチオ系とシステアミンですが、現在はシステアミンの登場機会が大変多い印象です。これはチオ系よりもシステアミン系の方が、仕上がりの手触りにゴワつきを感じにくいからだと考えられます。
そして手触りに影響を及ぼすのは、以下に挙げた仕組みの違いによるものです。
- チオグリコール酸は髪の毛の1つの部分で、シスチン結合の80%を切断して再結合。
- システアミンは髪の毛の4つの部分で、シスチン結合を20%ずつ切断して再結合。
結果としてですが、80%×1箇所を還元・酸化してパーマをかけるよりも、20%×4箇所を還元・酸化してかけたパーマの方が、仕上がりの手触りは良く感じるのです。つまり髪の傷み具合が同じでも、「傷み方の違い」によって手触りで優劣が出るという結果になります。
どんなにかかりにくい髪でもかかる、一番強い最強のパーマ液の使い方
パーマのかかりにくい剛毛には、複数の還元剤を組み合わせるダブル還元が一般的な対処法。とはいえ、ハイブリッドカーリング料は最初からダブル・トリプル還元しているのと同じです。
短時間かつ強力「チオによるプレ還元」でのコールドパーマ
最大級まで強力なかかり方を求める場合、以下のような方法も奥の手として活用できます。軟化して反発しにくくなった髪をワインディングするので、剛毛でも巻きやすいというメリットも見逃せません。
- 縮毛矯正のハードタイプにあたるクリーム状のパーマ液を先に塗り、数分放置してからプレーンリンス。
- 軟化した髪をワインディングして液状の1液(ごく弱い還元力のもの)を塗布、短時間(2~3分)放置ののちテストカール、中間水洗⇒2液塗布で仕上げ。
まとめ
毛束でパーマのかかり具合を並べて見せられても、実際にパーマをかけた時のイメージが持ちにくい!という方も多いのではないでしょうか?前提となる髪質や、髪の傷み具合といった不確定要素の存在が、難しいパーマ技術をますます難しく感じさせます。
まずは「化粧品」と名乗るハイブリッドカーリング料が持つ「ダメージが少ないイメージ」に、美容師側が混乱させられないことが一番大事です。
その次に、決まり事の中でも薬剤の効かせ方・組み合わせ方を柔軟に活用していくのがパーマ液選びを攻略する近道となります。パーマは一記事で語り尽くせないほど奥の深い技術ですが、一つの観点としてパーマ液を選ぶときの目安になれば幸いです。